5歳
私が5歳のときまで父親はガソリンスタンドで働いていて、私はたまにその職場へ母親に車で連れていってもらった
母親とスタンドの休憩所で缶ジュースを買って、バリバリ仕事をする父親を見ながら椅子に座って飲んだりしていた 私はミルクセーキで、母親はコーラを
休憩所の窓から見える父親のすがたは、くたびれてシナシナになって家に帰ってくる父親とは全くちがくて、しらないきらきらの男の人のように見えた
そこにはダイスケという、父親より10個下の若い男の人が働いていた
父親より10個下といえども職場にはオッサンかアバズレの女しかいなかったため、彼は父親が一番親しくしていた同僚だった
ダイスケは当時22歳で髪を茶色く染めていて、若くてはじけそうな笑顔をふりふりふりまいていた 彼は愛想がよく、ウィッスウィッスと言いながら仕事をてきぱきこなした 仕事着がよく似合い、浅黒い肌をした健康的な若者だった 高校生のときから付き合っている彼女もいた
父親はヒマができると休憩所にきてすこし私たちと話したりして、すぐまたどこかに行って客の車を洗ったりしていた
たまに父親はダイスケを連れて休憩所にきたりした
父親はダイスケと仲よさげに話した その光景を見るのはなんとなく好きだった
父親はダイスケに、「娘かわいーだろ」と言ったりするので、 私はダイスケに、かわいいね~などと頭をなでられた
たぶんその時の私の顔は「無」だった 感情も「無」
それでもダイスケはよく私をむりやりだっこしたり、なにかたのしい話をしようとしてくれたのだった
会うたびダイスケは私に良くしてくれた
底抜けに明るいダイスケはムッツリしている私の前にしゃがんで手をおおきく広げて、「おいで~」とやってみせた
私はダイスケにはだきつかず、父親のほうへ走って逃げて父親の背中にだきついた
私を抱きかかえた父親に向ってダイスケは「やっぱパパのが好きなんっスね~」と苦笑いで言った
笑うと覗くつるりとした白い歯は少し悪い並びで、それがかわいらしい印象をつくっていた 女の子にもてそうだとおもった
そのご、事情があって父親はこの仕事をやめることになった
仲良くしていたとはいえ所詮「同僚」なので、父親もそれからダイスケと連絡を取ることはなくなった
2年後の秋の晴れたある日 私たちは市内の公園にあそびに行った
駐車場に車をとめて車から降りると、向かいの駐車スペースのコンクリの車止めに若い男2人が腰掛けて談笑していた
そのうちの1人はダイスケだった
母親が「ちょっとあれ、ダイスケじゃん」と父親にコソコソ言った 父親は「あれダイスケだなあ」と言った
ダイスケはダボダボのジーンズとかダボダボのTシャツを身につけ、タバコを吸いながらあの頃と変わらない若くてはじけそうな笑顔をふりふりふりまいていた 隣の男の人とたのしげに話しつつ、たまに足元においてある空き缶の中にタバコの灰をトントンと捨てた 頭は2年前よりも少し明るくなっていた
私たちはダイスケにばれないように顔を隠して彼らの前を通った けれどダイスケがちらっとこちらを向いたのが私には見えた
公園ではバドミントンやサッカーをしてたくさん遊んで、夕方になったら私たちは私たちのおうちに帰った