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うそ

すごい嘘つきのあやちゃんって子がいた。嘘つきだし、バカだった。
あやちゃんに私はゲームのカセットを盗まれたことがある。小学校高学年くらいのとき。わたしはそーいうことをされると、相手が降参して土下座するまで詰問をするたちだ。とにかく不正を許さないザジ村。でも、あやちゃんはいつだってわたしの詰問にめげなかった。「ちがうちがう、これあたしの。前から持ってた。」の一点張りで、めげずに、わたしに刃向かう。そのカセットをゲーム機に入れて電源をオンするとわたしのデータがしっかり入っているにもかかわらず。証拠があるにもかかわらず。そうしていつも結局、わたしが降参する。まるでわたしが口うるさい女みたいになっているのが、恥ずかしくなってしまうから。

けれど、あやちゃんも、嘘だけついて生きているわけではなかった。ひたすらあやちゃんは明るかった。明るさがとりえだった。嘘つくし、明るいし、バカだった。それだから、友達がいないとかそういうのはなかった。実際、わたしも10年間くらいは友達の関係だった。
わたしはその10年のあいだ、あやちゃんの発言が嘘なのか本当なのか見極める技術を得ようと努力した。たとえば、生理。
小4の時、生理がきている女の子はほとんどいなかった。けれど、あやちゃんは、生理がきていると言い張った。当時、生理がきている子はみんなよりも一歩オトナに近づいたみたいでちょびっと羨ましがられていた。それで、わたしは、「やや、これはどうせあやちゃんお得意の嘘だな……。」と踏んだ。そういうわけで、問い詰めることにした。
あやちゃんが生理の時に一緒にトイレにゆき、「じゃあほんとうに生理がきているなら、おしっこしたあとの便器をわたしに見せてよ。」と、わたしは個室に入っているあやちゃんに言った。あやちゃんは、「え!やだよ!見せたくないよ!でもほんとうに生理は来てるもん!」と言った。はい嘘〜、と思った。それでわたしはしつこく「見せろ!見せろ!便器み〜せろ!便器み〜せろ!」と言ったけど、あやちゃんは「やだ!恥ずかしいもん!」と叫んで、結局見ることは叶わなかった。だからわたしはずっと、“あやちゃん小4で生理来てる説”は 嘘 だと決めつけていた。
けれどね、わたしね、成長したら分かったの。たとえ女同士であっても、おしっこしたあとの便器、見せたくないよね。それは、あやちゃんが嘘ついてるとかどうのとか関係なく、単純に、恥ずかしいよね。だから、きっとあやちゃんは、ほんとうに生理来てたんだよね。ごめんね。便器見せないから嘘ついてるんだって決めつけてごめんね。ていうかまず あやちゃん体でかかったしね。そりゃみんなより早く来るよね。ごめんね。
  
あと、あやちゃんのお父さんの職業。
小学生の頃、学校近辺を散策して虫さがしをしたり草や花のスケッチをしたりする 生活 という授業があった。それでそのとき、あやちゃんと一緒に道路脇を歩いていると、くだものとか動物の絵が描かれている白いフェンス(斜めから見るとその絵が見える、通学路などによくあるフェンス)を見かけることが多かった。それで、その白いフェンスを通るたびにあやちゃんは「これ、わたしのお父さんが描いたやつ。」と言った。わたしは、嘘っぽいな〜と思ったけど、一応詰問はせず「へぇ。すごいねお父さん。」と言った。するとあやちゃんは調子に乗って、それ以降市内どこを通っても、白フェンスがある限り「これ、お父さんが描いたやつ。」と言い張った。わたしはついうっかり「ほんとかよ、ぜんぶかよ…」と心の声を漏らしてしまった。するとやっぱり、バカみたいな口調で「え、ほんとだし… ほんとだよ?」とあやちゃんは言い張る。ので、「うん。そっか。」とわたしは流した。
結局わたしはずっと半信半疑のまま小学校中学校高校を卒業してしまった。
けれどね、わたしね、成長したら分かったの。
「そういう仕事も、ある」って。 あるよね、そういう仕事も。ていうかあやちゃんのお父さん、いつも作業服着てたしね。その職種っぽい。ごめんね、疑って。お父さんがフェンスに絵を描く仕事をしてるっていうことを疑ってごめんね。


ちなみに、あやちゃんのおじいちゃんは背中一面に龍の刺青が入っているガッツリヤクザで、あやちゃんは赤ちゃんのとき、ヤクザ一家に生まれたしるしとしておでこに焼きを入れられた。これガチ。